経理DXとは?取り組むメリットや課題、役立つツールについて解説
市場の縮小や労働人口の減少などを背景に、DX推進によって競争優位性を確立することの重要性が増している昨今。企業の経営や利益と密接な関係を持つ経理部門においてDXを進めることは、企業にとって喫緊の課題の一つです。
今回は「経理部門におけるDX」をテーマに、取り組むメリットや推進にあたっての課題、役立つツールなどの基礎知識について解説します。
DXとは
「DX(Digital Transformation)」とは、テクノロジーの活用によってビジネスモデルやビジネスプロセス、組織を変革することです。
システムの導入によって業務や情報をデジタル化する「デジタイゼーション(Digitization)」や特定の業務フローをデジタル化する「デジタライゼーション(Digitalization)」のステップをふみながら、最終的にビジネスや組織全体に抜本的な変化をもたらし、新たな価値や競争優位性を確立することが目指されます。
経理におけるDXとは
DXの定義や目的をふまえて「経理部門におけるDX」とは、経理業務にテクノロジーを取り入れて業務の進め方や組織を変革し、経営やフロント/ミドルオフィス領域の業務をサポートできる部門になっていくことだと捉えられます。
業務効率化や生産性の向上、働き方改革など、競争優位性の確立に向けて企業が取り組むべき課題は多様化し、またガバナンスを強化し経営を適切に管理することへの社会的要請も高まっています。こうした状況を背景に、経理部門が経営課題の解決に貢献できる組織になることの重要性は増していると言えるでしょう。
テクノロジーの活用によって経理部門が次のような付加価値を生み出せる状態を目指し、業務や組織の変革=「経理DX」を進めていく必要があります。
1. タイムリーに経営状況を可視化できる
2. 財務面での提案が行える
3. ガバナンス強化を推進する
1.タイムリーな経営状況の可視化
企業がビジネスや組織全体の変革を進めるにあたっては、まずは現状をタイムリーに、かつ正しく把握して分析し、客観的な視点から改善点や戦略を見極める必要があります。経理部門が経営に関わるデータを適切に管理して経営状況を可視化できる状態を作っておくことが、企業全体のDXを推進する第一歩になり得るのです。
2.財務面での提案
経営状況を可視化した先で、可視化された情報を根拠に「何を・どのように改善していくべきか」「優先度の高い項目は何か」といった課題の抽出や解決方針の提案を行うことも、経営に対して経理部門が発揮できる大きな価値の一つです。
3.ガバナンス強化
企業におけるお金の動きを把握・管理し、ミスや不正を正す・これらを未然に防ぐための仕組みを整える、といったガバナンス強化の取り組みを行うことで、ステークホルダーからの信頼を守ることも経理部門が経営に貢献し得るポイントです。
経理業務における現状の課題
経理部門におけるDXが求められる背景には、経理業務の次のような課題があります。
1.属人化しやすい
2.業務負荷が高い
3.テクノロジー活用が進んでいない
1.属人化しやすい
経理業務においては専門的な知識が求められ、また業務内容やフローは担当者のみが把握しているなど “閉じた” 領域になっているケースが多いことから、「特定の社員でなければ業務を遂行できない」という属人化した状態になりやすいと言えます。
2.業務負荷が高い
一人ひとりの経理担当者にかかる業務負荷が大きいことも、経理業務の課題の一つです。要因としては、業務の専門性の高さから なり手が少なく、慢性的に人手不足が続くこと、経営と深く関わる業務であり高い精度が求められること、計上月のずれなどが生じないよう限られた時間で膨大な作業を行わなければならないことなどが挙げられます。
3.テクノロジー活用が進んでいない
経理業務においてはテクノロジー活用の遅れが目立ち、現在も紙とハンコや手作業に頼る処理・管理が行われているケースも少なくありません。これは業務の効率化や可視化を妨げ、属人化や高い業務負荷の要因の一つにもなっています。
経理DXがもたらすメリット
「経理DX」がもたらす主なメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
1.コストを削減できる
2.より付加価値の高い業務に注力できる
3.働き方改革を推進できる
4.組織体制を強化できる
1.コストを削減できる
システムを導入して経理業務のプロセスを見直すことで、人が手作業で行うべき項目が減り、大幅な人的コストの削減に繋がります。また、書類や手続きのデジタル化によってペーパーレス化が実現すれば、書類作成・保存にまつわるコストも不要となり、企業の支出を減らし利益率を高めることに貢献できます。
2.より付加価値の高い業務に注力できる
システム導入によって人の手作業に頼っていた業務フローの自動化が実現すれば、それによって生まれた時間を経営分析や資金需要の予測、それらをふまえた経営に対する提案など、より付加価値の高い業務に使うことができるようになります。
3.働き方改革を推進できる
ペーパーレス化によって場所を問わず経理業務が行えるようになったり、自動化によって業務を行うのにかかる時間が短縮されたりすることは、経理担当者がそれぞれの事情に合わせてテレワークや時短勤務など多様な働き方を選択する後押しになります。
4.組織体制を強化できる
システム導入を経て業務内容やフローが可視化され、ノウハウが組織に展開されること、働き方の多様化によって “働く場所” としての魅力が高まることなどが、育成や採用を進めて組織体制を強化する土台になり得ます。
経理DXに着手するにあたっての課題
経理業務における課題を解決し、さまざまなメリットをもたらし得る「経理DX」ですが、取り組みに着手するにあたっては大きく2つの課題があります。
1.システムのモダナイゼーション(Modernization)
レガシーシステム(過去の技術や仕組みで構築されたシステム)を長く使い続けている組織においては、アーキテクチャや技術の古さ、改修を繰り返したことによるシステムの複雑化などが、新たに導入するシステムとの連携の妨げになる可能性も。
こうした場合、まずはインフラの刷新(リホスト)や再構築(リビルド)、新しい言語やツールへの書き換え(リライト)などシステムのモダナイゼーションを行い、“技術負債” を解消して経理DXの土台を築くことが求められます。
2.経理DXをリードできる人材の獲得
DXを進めるにあたっては、“IT分野の知識・スキル” と “自社のビジネスや現場業務への深い理解” をもち、システムの導入・展開から保守運用までをリードできる存在が欠かせません。
特に経理領域においては業務内容の専門性が高く、システムのアップデートには法律とその改正内容などに対する理解も必要になることから、経理DXの第一歩としてリーダーの採用や育成を行うことが重要な課題だと言えます。
経理DXを進めるためのツール
経理DXの推進に役立つツールには、以下のようなものがあります。
1.RPAツール
2.AI-OCRソリューション
3.ワークフローシステム
4.クラウドシステム
5.API連携
1.RPAツール
RPA(Robotic Process Automation)ツールとは、大量のデータを素早く・正確に処理することができるソフトウェア上のロボットを活用して、業務を自動化するツールのこと。業務フローやルールを記憶させることで、経費・決算データの収集や帳票の作成などオンライン上で完結する定型作業の自動化が実現します。
2.AI-OCRソリューション
AI-OCRとは、画像データ上の文字情報をデータ化するOCR(光学文字認識技術)に、AI(人工知能)を組み合わせた技術のこと。ディープラーニングによって、文字情報の読み取り精度を高められるのが特徴です。紙の領収書や請求書を読み取って電子データに変換し、記載内容や仕訳をシステムに自動入力することができます。
3.ワークフローシステム
ワークフローシステムとは、申請業務をオンライン上で一元管理できるシステムのこと。経費精算や、物品・サービスを購入するにあたっての稟議などについて、申請から承認までの一連のフローをすべてシステム上で完結させることができます。
4.クラウドシステム
クラウドシステムとは、クラウド環境に構築された、インターネットを通じて利用ができるシステムのこと。インターネットに接続できる環境があれば、スマートフォンやPCなどのデバイスからアクセスし、オンライン上で業務を行うことができます。
1.会計システム
2.経費精算システム
3.電子帳票システム
など多様なクラウドシステムが登場しています。
5.API
API(Application Programming Interface)とは、システムどうし、アプリケーションどうしでデータのやりとりを行う仕組みのこと。例えば、経費精算システム・会計システム間でAPIを通じた連携を行えば、入力した経費データをもとに自動で会計処理を完了させることができます。
経理DXを成功させるポイント
経理DXを成功させるために押さえておきたい5つのポイントを解説します。
1.目指す業務プロセス・フローの定義
2.ステークホルダーとの連携
3.自社に合ったツールの選定
4.属人化を防ぐ工夫
5.ガバナンス強化に向けた対応
1.目指す業務プロセス・フローの定義
DXにおいては、単にシステムを導入すればよいのではなく「業務のあり方から根本的に変革する」という考え方が欠かせません。まずは既存の業務プロセスやフローを見直し、課題の把握や自動化すべき範囲の整理を行った上で、経理DXを通じて目指す業務プロセス・フローを改めて定義することが重要です。
2.ステークホルダーとの連携
経理業務のあり方の変化は、申請・承認を行う社員や取引先など多様なステークホルダーに影響を及ぼします。描く業務変革を実現するために、変更に対するステークホルダーの理解を得ること、それぞれの事情や要望を汲み取ってプロセス・フローやルール、システムの仕様などに反映することが求められます。
3.自社に合ったツールの選定
クラウドシステムとは、クラウド環境に構築された、インターネットを通じて利用ができるシステムのこと。インターネットに接続できる環境があれば、スマートフォンやPCなどのデバイスからアクセスし、オンライン上で業務を行うことができます。
・業務プロセスの見直しによって整理した「自動化すべき業務」の自動化が叶うか
・機能や操作性は、社員のITリテラシーに見合っているか
・自社の既存システムや他に導入するツールとの効果的な連携が可能か など
4.属人化を防ぐ工夫
導入したツールを定着させ「ITリテラシーの程度によらず、誰もが問題なく効率的に業務を行える」状態を実現するために、新たな業務プロセスやツールの活用方法の可視化と共有、ツールのユーザビリティの向上などに取り組むことが欠かせません。
5.ガバナンス強化に向けた対応
導入したツールの機能を活用してミスや不正を是正・防止する仕組みを構築すること、セキュリティ規格に準拠した適切な対策や運用を行うこと、ガイドラインの策定や研修によってコンプライアンスやリスクマネジメントについての社員の意識を高めることなど、ガバナンス強化に向けた取り組みも重要です。
まとめ
経理DXとは、経理業務にテクノロジーを取り入れて業務の進め方や組織を抜本的に変革すること。企業が取り組むべき課題の多様化や、経営を適切に管理することへの社会的要請の高まりを受け、経理DXを通じて経理部門が「経営やフロント/ミドルオフィス領域の業務をサポートできる組織」になることの重要性が増しています。